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せっかくの日曜日ですから、こんな話題はいかがでしょうか?
関東と関西では、何が違うか
「ゲンノウ(玄翁)」という言葉をご存じでしょうか?
最近はめっきり聞かなくなりました。以前に大工さんと話していて、「玄翁、借りますよ。」と言ったら「古い言葉使うねー。」と笑われちゃいました。
一般的にはカナヅチとかトンカチと呼ばれています。
形や使い方は詳しく説明するまでもないでしょう。
玄翁は頭のところの金物の大きさで何種類もあります。小さな釘を打つ時は小さな玄翁を使い、大きな釘を打つ時は大きな玄翁を使います。
昔は道具屋でも百匁目(ひゃくもんめ)とか2百匁目とか言って、玄翁の頭のところの金物だけを重さで分けて売っていたものです。
玄翁の頭につける柄の部分は大工が自分で作っていました。柄の長さには、自ずから使いやすい長さというものがあります。頭の金物が大きくなれば柄も長い物になります。
使ってみればすぐにわかる事ですが、頭が大きいのに柄が短かったら使いにくくて仕方ありません。逆に小さな頭に長い柄がついていても邪魔になるだけです。ただ、形は関西と関東で少し違います。
関東と関西では、サシガネの長さが違ったり、柱の間の長さの測り方も違います。
柱と柱の間を「一間」と言いますが、関東では2本の柱の芯(中心線)から芯までを測ります。これを芯-芯寸法と言います。
ところが関西では、2本の柱の向き合った面から面までを測ります。これを内-内寸法と言います。
だから、例えば1間が6尺と言っても柱と柱の間隔は、関西の方が関東よりも大きい事になります。
畳でも関西の「京間」と関東の「田舎間」では、京間の方が大きい。サシガネにしろ、柱間にしろ関西の方が基準が大きい事になります。
玄翁の頭の金物の形も関東と関西では違います。
玄翁には釘を叩く面がふたつあります。関東ではどちらの面も同じような形をしています。釘が当たる面が丸くなっているか、平らになっているか位の違いです。
よく見ないとわかりませんよね。
これに対して、関西の玄翁は叩く面の片方を細く絞っています。釘の頭を叩く時に便利だからです。
釘を打つ時は、ただガンガン叩くだけではなく最後に「ポン」と釘の頭だけを叩きたいものです。木を傷つけることもなく、綺麗に仕上げる事が出来るからです。この最後の一打ちを「叩き絞める」と言う訳ですが、この時玄翁の頭の片方が絞ってあれば、そこを使える訳ですから、玄翁ひとつで用が足りてしまいます。
頭のところが両方とも太くなっている関東の玄翁では、これは出来ません。そのため「ポンチ」という名前の道具を使います。釘をうんと太くしたような形の道具です。このポンチを釘の頭に当てて玄翁で叩く訳です。
ポンチの画像
こんな風に使います。
どちらであっても使い慣れてしまえば、どちらが便利ということもありません。
関東の玄翁を使い慣れた人間がいきなり関西の玄翁を使おうとすると、ちょっと戸惑うかもしれません。片方の頭が絞ってある関西の玄翁は、重量バランスが関東のそれとは違うからです。だから関西の玄翁を使いこなすにはちょっとコツがいる。
どちらが理屈に合っているかと言うと、道具としての合理性を重視しているのは関西だと思います。関西の大工に言わせれば、「なんで、玄翁の頭に同じ物が2つも要るんや。2つあるんなら片方を別の形にした方が無駄がないやろ」という事になるでしょう。
逆に関東の大工に言わせれば、「玄翁の頭が二つとも同じ形なら、目をつぶっていても間違う事はないじゃないか。叩き絞める時はポンチを使えばいいんだ」という事になる。
道具としての理屈よりも、取っ付き易さを大事にしているのが関東という事ではないでしょうか。
関西の味付けは薄味でダシでうまみを引き立てる。逆に関東は味が濃くて甘辛でものの味を引き立てると言いますが、甘辛を強調する関東の味付けは、関西人に言わせると田舎臭い料理だという事になります。
玄翁の頭の形の違いも、それとちょっと似た感じがあるようで、関東の玄翁の方が素人には取っ付き易い。料理で言うと子供にもわかる味付けになっている訳です。
だけど関東の玄翁も、これはこれでよく考えてあるのです。ふたつある頭の釘が当たる面を丸く加工してあるほうは、鑿(ノミ)を打つのに都合がいい。鑿の柄の木の部分は、柄を絞めているマチという丸い金輪よりも少し突き出ていて、この突き出た部分だけを叩きますから、玄翁の頭の丸い方を使えばそんなに気を使わなくてもうまく叩ける訳です。
鑿の柄とマチの画像
うんと昔は玄翁は釘を叩くもの。鑿を叩くのは木槌と決まっていて、玄翁の小さいものをカナヅチと言っていたそうです。和漢三才図会という江戸時代の、絵が入った百科事典にはそう書いてあると聞いた事があります。そうすると、関東の玄翁の頭の片方が丸くなったのも、「叩く事は同じなんだから、鑿も叩けるようにしよう」という事で考え出されたのかもしれません。大工と鍛冶屋があれこれ相談しながら工夫していったのでしょう。
和漢三才図会
ただの鉄の塊に見える玄翁の頭ひとつにも、大工の知恵がこもっています。
いかがでしたか?
今回は、以前にもご紹介した本の中より抜粋させていただきました。
著者が静岡の方なので、少し関西人よりなのかも知れません・・・。
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posted by t.arai
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