人と断熱の関わり

せっかくの日曜日ですから、いつもと違うお話しをしたいと思います。

人間は恒温動物です。

ですから体温が急に上がったり、下がったりすれば死んでしまいます。

37度程度の体温を維持していなければなりません。

ところが外の温度は、夏は30度を超え冬は東京でも0度を下回る事もあります。

当然、何かしらの温度調節機能が必要になります。

暑いと汗をかくのはその為で、汗が蒸発する際に気化熱により体温を奪います。

団扇で扇ぐと涼しくなるのは風が発汗をスムーズにするからです。

それでも暑くて仕方ない場合は冷房を運転し、室内の温度を機械的に下げる事になります。

寒い時の体温調節は『震え』です。ブルブルッとすると身体の中に熱が生まれます。

でもしょっちゅうブルっている訳にもいきませんし、ブルっていてもそんなに暖かい感じはしませんよね。

その為に人間は、服を着ます。

つまり、服は断熱材なのです。

犬や猫には毛皮があって、それが服の代わりをしています。

服よりも一回りも二回りも大きい断熱材が『家』です。

昔の農家の屋根を思い出してください。

たっぷりとした草葺き屋根が載っていました。

草葺き屋根の草は乾燥した藁や萱でしたが、その断面をよく見るとストロー状になっています。

このストローの中に空気を閉じ込めているので、断熱性があるのです。

普段目にする事の多い断熱材のグラスウールも、萱と同じように空気を繊維の中に閉じ込める事で断熱します。

断熱材の詳しい説明は省きますが、ここでは昔の草葺き屋根もグラスウールと同じ位の断熱性能を持っていた事を知ってください。

今の住宅で使われるグラスウールの標準的な暑さは100~200ミリ程度でしょうか。

これに対して民家の草葺き屋根は200~300ミリもあるのですから、民家の屋根は超高断熱だったと言えるでしょう。

日本の家の原点とも言える竪穴式住居も、草葺き屋根で覆われていました。

屋根と壁が一緒ですから、竪穴式住居も高断熱住宅だったと言えるでしょう。

しかも床は土のままでした。こんな床を『土間』と呼びます。

土間は1年中温度が安定しています。

寒さや暑さから逃れるためにはとても有利でした。

そんな土間で囲炉裏を焚いていたのですから、古代の家は今よりもずっと暖かだったかも知れません。

以上のように、断熱という行為は今になって始まった事ではありません。

高断熱・高気密という刺激的な表現があるので、断熱や気密が特別なものに思えてしまいますが、古代の家もついこの間まであった民家も、断熱されていた訳です。

家の断熱が良ければ冬に薄着になっても寒くありません。

逆に家の断熱が貧弱ならば、厚着をしなければなりません。

断熱してもまだ寒ければ、暖房を始めなければなりません。

断熱と暖冷房の関係は、このように一体で考えるものなのです。

太めの毛糸で編んだセーターはふわふわしていて暖かいですよね。

でもセーターは編み目が粗いため、風を通してしまいます。風が吹けばそれを着ていてもちっとも暖かくありません。

そこでその上にウィンドブレーカーを着てみると、とたんに暖かくなります。

ウィンドブレーカーで気密性が高まった訳です。

要するに、どんなに断熱が立派でも気密性が伴っていなければ暖かくないという事です。

断熱と気密は一体であって、断熱はいいけれども気密は嫌いという訳にはいかないのです。

「断熱と気密が一体だと言うのはわかりました。でも、夏は気密じゃない方が涼しいのでは・・・。」

確かにその通りですね。

夏は大きな草葺き屋根の下で、風通しの良い縁側に座りスイカでも食べていれば最高の気分です。

深い庇が日陰をつくり、草葺き屋根の高断熱が強烈な日差しによる熱を防ぎます。

夏は断熱も必要ですが、通風も必要です。

そして通風をする為の大きな窓が必要ですから、高気密は逆効果になりそうです。

冬は高気密の方がいいけど、夏は気密が邪魔・・・。

やはり断熱・気密の話は北欧のように寒冷な地域に好都合なものであり、日本には適さないものなんでしょうか?

そんな話に強烈に反論する人もいます。

「日本のように蒸し暑い地域こそ高断熱・高気密は必要なんだ。蒸し暑さの中で過ごすには除湿が必要で、冷房運転をして室内温度と湿度を下げなければならない。でも高断熱・高気密にすれば、少ないエアコンで家全体を除湿・冷房する事が出来る。従って日本にこそ、高断熱・高気密は必要なのである。」

確かに、冷房する事を前提にすれば断熱・気密は重要だし、今では縁側で夕涼みなんて夢のような話です。

冷房の無い家なんてないし、だったら高断熱・高気密化が理に適っているような気が・・・。

こんな事を言ってると、

「空調に支配された家」なんて言われたりするかも・・・。

断熱・気密はどうして必要なんでしょうか。

ここで、注目していただきたいのが『窓』の存在です。

民家には大きな窓があって、夏は風が抜けていました。

同じように今の家だって窓があります。

窓を開ければ気密性は一瞬にして消滅し、窓から風を取り入れる事が出来ます。

要するに、高断熱・高気密化は通風を無視するものでは無いという事です。

「蒸し暑い日本では冷房で除湿する事が重要」と言う人がいますが、この場合には窓は閉め切りです。

でもそれはそれ、色々な考えの人がいるのですから、窓を閉めて冷房で快適さを得るのもひとつの選択肢です。

これが最高に快適だという事が間違いであるように、そんな考えを認めないのも間違いです。

このように、窓の存在は断熱・気密化の夏と冬における矛盾を解消する事が出来ます。

断熱・気密性を高める事で、窓の開閉による調節が初めて可能になる訳です。

初めにお話ししたように人間は恒温動物であり、一定の温度を維持しなければなりません。

でも外気温は大きく波打って、冬には体温よりもずっと低温に、夏にはずっと高温になります。

この様子を図にすると、以下のようになります。

真ん中にある帯が人間が保たなければならない温度(快適温度)です。

帯の幅は個人差や我慢出来る範囲を示しています。

冬は寒さに慣れて少し低くなっていますが、夏はその逆に少し高くなっています。

それでも外気温(外部条件)との差は大き過ぎます。

冬に裸のまま放置されれば死に至ります。

外気温は大きく波打っていますが、この波を体温に近づけるのが建築的手法となります。

難しい言葉になってしまいましたが、要するに断熱・気密という事になります。

断熱・気密する事で波は和らぎ、外気温は体温に近づきます。

でもまだ体温には届きません。この不足分を補うのが機械的手法となります。

つまり暖冷房(空調)です。

空調で機械的に快適な温度までコントロールします。

上図を見てください。

外気温の影響をまず断熱が和らげますが、それでも足りなければ空調の出番となります。

もし断熱だけで済むのであれば空調は不要となります。

「高断熱・高気密の家は空調に支配されているようだ。」と言う方がいますが、実際はその逆で断熱・気密が高くなれば空調の必要性は低くなります。つまり断熱・気密が先にあって、空調は後にくるものなのです。

日本の家は冬がくれば暖房するのが当たり前になっています。

暖房が先に来て断熱・気密が後になっているのです。

こんな状態では、大きな熱で暖房しないと快適になりません。

快適さは贅沢なものに思えてくるでしょう。

快適という言葉に対して私達が罪悪感を感じるのは、こんなところに理由があると思われます。

そこで登場するのが『我慢』です。

出来るだけ暖房しないで寒さを我慢する。

省エネルギーを節約と訳してしまうのも、そのせいだと思われます。

『我慢のエネ』の結果が、上グラフにはっきりと出ています。

欧米諸国どころか、韓国や中国都市部と比べても暖冷房エネルギーの量が少ない事が分かります。

我慢するより、断熱・気密という知恵を使って空調を小さくしながら、快適さを得ればいいものを日本ではなぜか断熱・気密が先に出てこないのです。

 

 

その選択が、上図のNNK(ネンネンコロリ・・・病気と付き合いながらの生活が続き、寝たきりになった後天国に行く)を増やして来ました。

PPK(ピンピンコロリ・・・病まずに天国に行く)を選びたいあなた、やっぱり高断熱・高気密の家でしょう。!

南雄三 著/断熱・気密のすべて/日本実業出版社 刊から抜粋・引用させていただきました。

  

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