人と住まいを守るために必要なもの19

換気についての基本的なお話しをご紹介しています。

第19回目は『熱交換と省エネ』というお話です。

冬期間に排気される室内の暖かい空気の熱を回収し、室外の室内よりも低い温度の空気を暖めてから(熱交換)室内に導入出来るのが熱交換型換気装置です。

熱交換型換気装置は省エネと宣伝されますが、本当に省エネなんでしようか?

例えば相当隙間面積(C値)1.0平方センチ/平方メートルの気密住宅でも、実質的に熱が交換されるのは必要換気量の半分以下です。他は第3種換気と同じように熱交換されずに屋外に排気されます。

機械換気によって入れ替えられる換気風量のみが、ある割合で熱交換されるだけであり、住宅の隙間からの漏気は熱交換されません。

上図を見ると、C値が1.0の場合の給気口からの給気量は全体の50パーセントしかありません。

熱交換器の実質効率(カタログ上の交換率ではありません)を60パーセントと仮定すると、給気される新鮮空気の50パーセント程度は給気ダクトを通らずに住宅の隙間から室内に入ってくる為、60パーセント×0.5で30パーセントの交換率になってしまいます。仮に実質効率が90パーセントあったとしても、45パーセントになります。

熱交換型換気装置の省エネメリットを発揮する為には、C値0.5平方センチ/平方メートル以下の気密性能が必要だという事がお分かりかと思います。

まして日本では、冬期間に24時間全館暖房をして暮らす習慣が全国的に殆どありません。

在室している部屋だけを必要に応じて暖房する部分間欠暖房を行うのが現在の一般的な生活習慣であり、このような住まい方の住宅に熱交換型換気装置を設置しても、排気熱の温度が低く熱交換器の効果は全く得られません。

つまり24時間全館暖房する家以外は電気代の無駄になるのが、熱交換型換気装置です。

さらに外気温と室内温が等しくなる春・秋の中間季では熱回収はされず、高いランニングコストで熱交換器を24時間運転しなければならないのです。省エネの優位性はありません。

夏の場合も同じです。24時間全館冷房する家が少なく、例えしたとしても室内温と室外温の差は10度程度しかありません。このような温度差では省エネ効果は期待出来ません。

朝・晩のように外気温の方が低い場合でも、室温と熱交換する事で給気温度は上昇してしまいます。電気代をかけて快適さを捨てる事になるなんて・・・。せめてバイパスモードのある機種をお勧めしたいと思います。

もう一点、重大な問題があります。

排気する空気から熱と湿気を回収する『全熱交換型』と呼ばれる方式です。

参考までに申し上げます。

ヨーロッパ各国では住宅用熱交換器の方式に関して1970年代から全熱交換方式は非衛生的と断定しており、『顕熱方式』を使用しています。

それは、「全熱交換器は排気空気内の水分や汚染物・臭気が交換器のエレメントを通過してしまい、衛生的であるべき給気側に汚染物質がリークする」という理由からです。

給気を長いダクトで行う事や、熱交換器の利用はいずれもその構造内にカビ等の繁殖を防ぐ事が出来ません。

シックハウスの原因となる事が長い経験から判明し、1990年代始めにダクト内の清掃を強制化する法律も出来ました。

日本では住宅用の給気ダクト内の清掃は強制化されていない為、熱交換型換気装置を採用する場合は十分注意が必要となります。

ちなみに排気ダクトの汚れは、室内に戻ってこない為衛生的な問題にはなりません。ご安心ください。

ただし、塵や埃がたまり圧損が増える事で消費電力の増大に繋がる事はあり得ますので、やはりメンテナンスは必要です。

今回はここまでとします。

次回のお話で最終回となります。

幻冬舎ルネッサンス 刊/北村忠男 著/高気密木造住宅をもっと知ろうから抜粋させていただいています。

  

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