blog
人間は動物の中でも『暑さにめっぽう強い』そうです。
日経BP社 刊
エコハウスのウソ[増補改訂版]
東京大学准教授 前真之 著
の中から、難しいけど面白い話をご紹介します。
湿度が高く蒸し暑い日本の夏を過ごしていると、「人間は暑さに弱い生き物」に感じられるのも無理はない。
しかし冷静に見れば、人間ほど暑さに強い動物はほとんど存在しない。
夏の炎天下にマラソンできる動物を人間以外で見た事のある人はいないはず。
実は人間は暑さにめちゃくちゃ強い生き物なのである。
その理由は、我々の祖先について振り返るとおのずと明らかになる。
動物の分類はいくつもあるが、体内で代謝熱を生み出すか、体温が安定しているかどうかの区別では「変温動物」と「恒温動物」とに分類される。
ナマケモノなどの変温動物は、自分の体からはほとんど代謝熱を生み出さず、外界の温度変動が体温に直接影響する。
熱を出さなくてよいので食料は少なくて済むが(一日当たりの食事はたったの10グラム)、外界の温度が上がり過ぎたり下がり過ぎたりすると活動できなきなってしまう。
これに対してコアラなどの恒温動物は、食料のエネルギーを消費して、体の中で代謝熱を生み出す。(一日あたりの食事は500グラム)
人間も恒温動物の端くれであり、全く動いていなくても代謝熱(基礎代謝熱)が発生する。
恒温動物のメリツトは、外界の温度が変化しても体温を維持することで活動し続けることができる事である。
人間が現在、世界中の様々な場所で活躍できるのは、この恒温動物である恩恵である。
恒温動物である事は活動の自由を広げてくれるが、デメリットもある。
代謝熱を生み出すために大量の食糧を摂取しなければならないし、なにより代謝熱を捨てなければ体温がオーバーヒートして死んでしまう。
体から余計な代謝熱をせっせと捨てる事が、恒温動物に課せられた「宿命」なのだ。
この代謝熱は、人間の活動量に応じて変化する。この代謝量の単位はメットで表され、下図のように活動に応じて大きく変化する。代謝量1メットは体表面1㎡当たり58.2Wの熱量を表す。図は日本人の平均的な体表面1.7㎡の場合である。(出典:空気調和・衛生工学会「快適な温熱環境のメカニズム」より)
この代謝熱を速やかに捨てる事が常に人体に求められている。
例えば特に激しいマラソンともなると、1000Wという60W電球16個分もの大量の代謝熱を捨てる必要が出てくるのである。因みにこの代謝量は健康管理にも用いられている。厚生労働省は、ウォーキングなど3メット以上の活動を1日1時間以上行う事を求めている。とはいえ、3メット1時間のウォーキングで燃焼出来るのは250キロカロリー程度。運動後のビールで軽く帳消しになってしまう。やはり食事療法が重要なのだ。
運動量が活発になると、膨大な代謝熱は速やかに捨てる事が最重要となる。
この熱の捨て方は下図のように放射・対流・伝導による「乾性放熱」と、汗の蒸散に伴う「湿性放熱」の2つに大別される。
このうち、前者の「乾性放熱」は周辺環境が暖かいか寒いかで決まってしまうので、人間に出来る事は着衣の調整だけである。
例えば夏に素っ裸になってしまえば、それ以上に乾性放熱量を上げる事は出来ない。あとは冷房して周辺環境を涼しくするしか方法がないのだ。
一方の「湿性放熱」は人体の方で汗をかく量を調整できるので、はるかに自由度が高い。
なにより人体は最大で1時間当たり1500グラムもの大量の汗をかく能力が備わっている。1時間に1500グラムの汗が蒸発してくれれば、気化熱で概ね1000Wの熱を捨てる事ができる。
こうして水の補給が続き、かいた汗が乾いて、気化熱を奪ってくれる限り、人間はオーバーヒートする事もなくマラソンし続ける事が出来る訳である。
汗をかいていない時でも体からは1時間当たり40グラムの水が蒸発し、27W相当の放熱をしています。
暑い日に放射・対流・伝導での放熱がゼロでも大丈夫!1時間に150グラムの水が蒸発すれば100Wの放熱が可能です。
厳密に言えば呼吸に拠る放熱も湿性放熱のひとつですが、ここでは汗の蒸散に含めています。
なぜ人間は、動物の中でもまれにみる強力な冷却システムを身に着けたのか。
そこには楽園を追われた我らが祖先の苦しい歴史があったのだ。
つづく・・・。
posted by Asset Red
住所:東京都練馬区北町2-13-11
電話:03-3550-1311
東武東上線 東武練馬駅下車5分