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エコハウスを設計する方々の間で、「わざわざ気密をとって機械で換気をするなんてバカげている。」という声を聞く事があります。
気密シートで覆われた家を『ペットボトルハウス』と揶揄する方もいるようですね。
かくも嫌われる『気密』ですが、本当のところはどうなんでしょうか?
東京大学准教授、前真之先生の話をご紹介します。
暖かい空気は力持ち、なにしろ熱気球は暖めた空気の力(浮力)だけで空を飛びます。
気球の球皮は完全な気密が取れています。従って暖かい空気は漏れません。
しかし気密性の低い住宅は、さながら大きな穴の空いた気球です。せっかく暖まった空気は建物上部の屋根や壁から我先に逃げてしまいます。
なお悪い事には、上から逃げた空気の埋め合わせの為に、屋外の冷たい(重い空気)が下から容赦なく侵入してきます。
つまり、暖房するほど居住域が寒くなってしまうんです。
高気密住宅(左)と低気密住宅(右)で、薪ストーブ暖房を行った場合のサーモ画像です。
赤が高温、青が低温を示しています。
高気密住宅では暖気を留めつつ冷たい漏気も防げるので、空間全体が快適温度に納まっています。
低気密住宅では上方から暖気がどんどん逃げる一方で、下から冷たい漏気が容赦なく侵入してきます。
CFDシュミレーションの結果からも、温風の漏れと冷気の侵入は空気暖房の場合は顕著な事がわかります。
気密をとらない事は、せっかくの断熱も無意味にしてしまいます。
住宅レベルの断熱を一言でいえば、『空気の流れを止める』こと。
断熱材は繊維や樹脂で空気を絡め止め、『動かない空気』を利用して熱の移動を止めています。
断熱材をいくら壁に詰め込んだとしても、隙間から空気が出入りしていたら効果は激減します。
冬に、目の粗いセーターとウインドブレーカーのどちらかを来たら、どちらが暖かいかを考えればご理解いただけるかと思います。
「気密が高いと息が詰まる」とか「低気密の方が空気がよく動く」という言葉を良く耳にします。
でも、隙間から気ままに侵入してくる空気は『漏気』であって『換気』ではありません。
換気とは、室内の空気の質を確保する為に、1年を通して常に確保された空気の流れを指します。
その為には、どうしても24時間安定して稼働する機械換気が必要になります。
そして気密性を高めなければ、機械換気を稼働しても肝心の室内空気は汚染されたまま滞留する事になります。
低気密のまま機械換気をしても室内の空気は入れ替わりません。
気密をとらないという事は、空気の質に責任をとらない事と同じではないでしょうか。
CFDシュミレーションの結果からも、気密がとれていない吸気口から排気口への流れがつくれないので、汚染空気が排出されていない事が判ります。
『気密』と『機械換気』はセットで考える必要があるようですね。
「機械換気をすると余計に電気を使うではないか」と言う方もいるでしょう。
確かにその通りですよね。
でも換気ファンの省電力化は急速に進んでいます。気密をとらないで無駄になる暖房エネルギーと比べれば、全く問題にならない程度の電力しか使いません。
『エコハウス』を名乗るのであれば、きちんと気密性及び断熱性を確保した上で、『空気の質の維持』に必要な風量を機械換気で確保するのが大原則です。
暖房負荷の低減、快適性の向上、しかも空気はキレイ・・・。いいこと尽くしですよね。
それでも納得できない人は多いかもしれません。
自由に動き回る空気を閉じ込めるのは、あまりに不自然ではないか・・・。
確かにそうかもしれません。
でも『寒い冬』に『暖かい空間』をつくろうとする事自体が、自然の摂理から見れば極めて不自然な事でしょう。
屋外と室内の空気が同じ温度で良ければ、気密も断熱も全く無用です。
「冬は耐えて春が来るのを待ちましょう。」それが自然の掟です。
でも人間は、本来か弱い生き物です。凍える寒さを生き抜くために、昔から必死の努力を重ねてきました。
「暖かい部屋で過ごしたい。」
「きれいな空気を吸いたい。」
「無駄なエネルギーを使いたくない。」
等々・・・。
こうした自然な願いを叶えるためには、冷徹な自然の物理法則に立ち向かう技術が必要です。
『高断熱・高気密』の技術には、そうした思いを叶える為の『暖かい知恵』が込められています。
そう思えば『気密』という言葉も、それほど息苦しい感じはしないのではないでしょうか。
posted by Hoppy Red
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